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ハイエンドヘッドホンと、デジタルオーディオの可能性を追求し続ける「だおさん」の紆余曲折blog。週1回(日曜日)or不定期更新。
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前々回の記事に引き続き、
これまで比較レビューを行った18機種について振り返る。

今回は、楽器特質と題した、ジャンル別の音の得手不得手について。
比較については、あくまでCD900STと比べて、という話だが、
もちろん感じ方は人それぞれで、異論も多いと思う。
私の場合は、特に管楽器・弦楽器やボーカルについては
どれだけより実際の音に近いか、を考慮している。

ヘッドホンに限らず、オーディオ機器は
「どれだけ本物の音に近付けるか」という楽しみ方と
「どれだけ自分好みの音を作り出すか」という楽しみ方、
2つが存在しうると思っている。
だから、単に「音がリアルだから」という理由だけで
万人が満足する音になるとは限らないのだ。
ことヘッドホンについては、自分自身の感性が共感した音ならば
他人がどう言おうと気にせず我が道をすすめばよいのである。

…そんな前置きをしつつ、振り返りをしたいと思う。


<とりあえず、おことわり…>

しかし、振り返りを書こうにも、
結果論から言うと、残念ながら楽器特質は
SR-007Aがほとんどの項目で圧勝なのが実情である…。

0724_SR007A.jpg

楽器の音のリアルさだけを考えたら、
やはりSR-007Aはどのハイエンド機種に比べて
頭1つ以上飛び出している。

そもそも、ハイエンドヘッドホンといいつつも、
どの機種も万能を目指しているとは言い難く、
どこか尖るところがあって、
いわゆる「聴いていて楽しい音づくり」をしている。
でなければ、高性能ヘッドホンはどれも同じ音になるし、
わざわざ使い分けるという使い方をするユーザもいないのだ。

「機種やメーカーによって音が違う」
それがヘッドホンの醍醐味ではあるのだが、
SR-007Aに限って言えば、その次元を超えて
どの音楽でも、あくまで元の音で、かつ美しくを体現した
恐ろしいヘッドホンであるといえる。

…と、ここまで持ち上げていてはいるが、
私自身はSR-007Aはあまり好きではない。
全てにおいて優れているのだが、「尖っていない」ので
聴いていてヘッドホンとしての面白みはあまりないのだ。
もちろん、完璧だから好きというユーザも多いと思うが、
一長一短だからこそ、使い分けが楽しいし、
愛着がわくものもあるといえるだろう。


前置きが長くなってしまったが、
以下の振り返りでは、SR-007Aを除いた機種で
特に気になった機種をピックアップしていくこととする。


<1.管楽器>

管楽器で大事なのは、高音域で突き抜けるような響きと
中低音域(いわゆる倍音)で支える音の艶、温かさだ。
比較的再現が上手なのは、W5000とK701である。

w5000bal.jpg     K702_2.jpg

どちらもバランスリケーブル済みの機種なので
リケーブルする前の純正ケーブル+アンバランス接続だと
性能はまた変わる可能性がある
(特にW5000は、リケーブル前は平均的な能力だった)。

ハイエンド機種にありがちなのは、高音が出すぎて音が薄かったり、
低音が出すぎて音がダマになってしまっている例だ。
かといって、全体的にフラットにならしすぎると他の音に負けやすい。
弦楽器以上に管楽器を鳴らすのは繊細だ。
そして、管楽器は弦楽器にはない温かさとパワーも必要となる。
それが上手に再現できた機種がこの2つといえるのではないだろうか。


<2.弦楽器>

弦楽器のリアルさについては、
現状ダイナミック型が静電型を超えることはないだろう。
弦楽器の持つ細かな振動を体感できることこそが静電型の大きな特徴である。
そして、その能力を最大限に発揮したのが、4070だけである。

KC380061.jpg

弦楽器のソロ演奏、たとえばヴァイオリン協奏曲を奏でさせたら
現状世界一といっても過言ではない。
(もちろん、世界に存在するすべてのヘッドホンを聞いたわけではないが…)
弦の振動を感じられる、というより、耳元でまさに弦楽器を奏でているかのような
生々しく、まさしくリアルな音を再生することができる素晴らしい性能を持っている。

ただ、4070はソロには強いが
全合奏だと方向性が定まらない雑多なサウンドになるので
人によってはそれが合わない場合がある。
また、低音がダイナミック型に比べて弱く、
チェロやコントラバスの再現力は、繊細さはともかく、倍音が弱いか。


<3.打楽器>

打楽器は、バスドラムやティンパニーが鳴らす超低音と
シンバル等金物が鳴らす超高音域をどれほどうまく鳴らすかである。
SR-007Aとedition9がやはり最高峰になってしまう。
単純につけた点数でいえば、前回もダークホースで出てきた
ATH-D1000が実は高得点をマークしていた。
そして、同じ打楽器である「ピアノ」をクローズアップすれば
ATH-ESW9をここでプッシュしておきたいところである。

0724_d1000.jpg    0724_esw9.jpg

前回も述べたのでしつこいが、
ATH-D1000はマニアックな仕様ながら、持っている性能は意外と高い。
設計して総合的にその音作りになったのだとは思うのだが、
普通のヘッドホンとしてその音が出せれば、W5000とはまた違う、
パワフルで逞しいサウンドを持ったヘッドホンとしてその地位を確立できたのにと思う。

ESW9は、特にピアノの表現力で特筆したい。
とにかく、ピアノの音が情緒あふれて美しいのだ。
やや控えめな高音域と、ふくよかな中音域が奇跡的なバランスを生み出している。
繊細さや正確さを求めたら当然ハイエンド機種には及ばないが、
雰囲気の良さでいえば、どのハイエンド機種にもない独特で個性的、
かつ上品で美しいサウンド作りをしているといえる。


<4.打ち込み>

打ち込み系のサウンドは、もはやこの機種一択、edition9である。

0724_edition9.jpg

テクノやエレクトロニカといった、低音が支配するダンスミュージック、
電子楽器をつかったややチープな音に対して、
実に楽しく再生する唯一の機種である。
もちろん、edition9はそれ以外においても高い性能を誇っているのだが、
こと打ち込み音楽に対してはどのヘッドホンよりも突出して得意と感じる。

さらにedition9とHeadroomの低音ブーストアンプとの相性は抜群で、
最高にノリの良いサウンドを提供してくれる。
edition9ほどのヘッドホンを買うユーザに、打ち込み音楽メインで聴く人は
あまり多くないような気もするが…。
別の言い方をすれば、ダイナミック型の特徴を最大限に発揮した機種とも言えるだろう。


<5.女声>

女声は、音域的にはオーボエやクラリネットなど
中音域の木管楽器に近い。
単純に人の声の再現ということならば、
やはりSTAX系が優位に立つのだが、
温かみ、艶といった面でいえば、ESW10JPN、
そしてハイエンド機種ではないのだがSBC-HP1000があげられる。

esw10.jpg   0724_hp1000.jpg

ESW10JPNは限定生産品、HP1000はディスコン品と、
どちらも手に入りにくい機種になってしまったが、
この2機種がならす女声はなかなか魅力的だ。
直接的な感じではなく、ごく自然な距離感を保っており、
なにより耳に刺さらない聴き心地の良い音を提供してくれる。

似たような音を鳴らす機種は、K701やSR-007Aが近いが、
HP1000の音を聴くと、ヘッドホンは必ずしも価格だけではないなと
改めて認識させられる機種である。


<6.男声>

周波数帯でチャンネルデバイドできるスピーカーシステムならともかく、
基本的に1wayで鳴らすことになるヘッドホンにとって、
男声は苦手なジャンルである。
男声ソロや合唱曲ならともかく、普通の楽器と一緒にならしても
音域がぶつかってしまい、なかなか音が響かないからだ。

ハイエンド機種も例外ではなく、
男声についてはあまり機種間で差がない。
ただ、ATH-ES7については、性能は高くないものの、
男声で比較的高得点をマークしていた。
ハイエンドの中では、DX1000が上手なほうか。

0724_es7.jpg   dx1000_2.jpg

ES7はその見た目の割に、低音のドライブ力がなかなかある。
もちろん、価格なりにあまり締りのない低音ではあるものの、
男声の表現力については、価格に見合わない、意外な再現力の高さを示した。
DX1000は、やや音が重たい感じはするものの、
男声の表現が他機種に比べるとそれほど埋もれる感じはしない。

ただ、男声といっても、ポップスなどでは女声域に近いくらいの
高音域で歌唱する歌手もいて、ある意味女声として判断したほうがいい場合もある。
ここでいう男声とは、ごく一般的な男声の声質で比較している。
(試聴では寺尾聰、秋川雅史などを用いている)


一口にヘッドホンといっても、その形状や鳴らす音楽のジャンルで
様々な姿を見せるのが面白いところである。
私の意見は絶対ではなく、あくまで主観的なものではあるので、
ぜひ皆さんもたくさんのヘッドホンを聴き比べ、自分好みのサウンドを見つけてほしい。

ヘッドホンユーザの一番の楽しみは、
素晴らしいヘッドホンを手に入れた時ではなく、
素晴らしいヘッドホンを手に入れるまで、悩み考える過程ではないかと
私は思っている。

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アンプ購入・訂正
「アンプ購入 」のコメントで「AYRE QB-9(USB出力一本」の箇所…「USB出力」は「入力」の間違いでした。出力はRCA・XLRが一系統ずつです。
plto 2009/06/28(Sun)13:43:04 編集
Re:アンプ購入・訂正
pltoさん
コメント修正、お疲れ様です…(笑)

AYRE QB-9は、今週話題にした「PCオーディオfan」にも
4ページにわたって取り上げられていました。
私がFireWireオーディオインターフェースを使っている一つの理由に、
USB DACはサンプリングレートが16bit/48kHzに上限を絞っている場合が多い
というのがありました。
QB-9は上限が24bit/96kHzで今私が使っている
MOTUの828mk2と同等の性能を持っているんですね…
しかもサイズが小さく、デザインもシンプルでいいですね…。

あと数年もしたらラックサイズのオーディオインターフェースなんて
古いといわれる時代が来るかもしれないと思うと
ちょっとさみしいものがあります(苦笑。
【2009/06/28 16:20】
アンプ購入
本物の音に近いかどうか、評価する基準もできてないpltoです…
生音に触れる経験を積まなきゃどうしようもないですよね。

CEC HD53Nを買いました。将来、AYRE QB-9(USB出力一本という、ノートPC使いのためにあるようなDACです)を導入してXLR入力・ヘッドホンのバランス駆動を狙っています。

HD53Nに繋いだD7000は、低音ホンぶりがかなり強化され、低音に関してはDX1000がはるか後方に…
ノートPC直挿しの頃はそんなに差はなかったのに。

…D7000、だおさんの低音ブーストHeadroomアンプに繋いだらスゴイ事になりそう。
plto 2009/06/26(Fri)17:04:55 編集
Re:アンプ購入
pltoさん
コメント、ありがとうございます!

本物の音に近いかどうか、というのはあくまで相対的な評価なので
それができれば完璧なヘッドホンというわけではありません。
それにヘッドホンは構造上本物の音に近付けるのは非常に難しいので
やはり最終的には自分が聴いていて気持ちいいか、楽しいか、
という基準で十分ではないかと思います。

HD53Nの購入、おめでとうございます!
CECは個人的には安心して聴けるメーカーという印象があるので
音も面白い感じに変わっているのではないでしょうか。

インターネットでも
「edition9と対等に渡り合える唯一のモデル」といわれるくらい
D7000はかなり性能が良いようなので
正直最近ちょっと気になっているところです。
地力で低音を鳴らすedition9と空力でならすDX1000といった感じですが、
D7000はどちら寄りなんでしょうね…。
低音は大好きなので、DX1000以上の低音が出てくれるとなれば
より興味がわいてしまいます。後はお金が…(苦笑。
【2009/06/28 16:15】
つもり貯金スタート?
自分は完全に好みの音派です!そもそも生演奏とは無縁

やはりSTAXスゴいんですね!ポータブルリニューアルに期待し、つもり貯金を始めようかと

Boseの本気ヘッドホン!自分としては今やホームシアターの定番〇・1chの元祖(だと思う)Boseにサブウーハーとセットのヘッドホン?を作って欲しいです
サブウーハーだけでもいいかも?
クロスオーバー?周波数調整で他のヘッドホンにも対応で低音パワーアップ

スピーカーで出来てヘッドホンで出来ない筈は…
坊SE 2009/06/21(Sun)20:13:46 編集
Re:つもり貯金スタート?
坊SEさん
コメント、ありがとうございます!

かつてどこのメーカーか忘れましたが、
スピーカーシステムをまねた
複数ドライバが入ったヘッドホンを作っていた気がします。
現存が1wayのみのヘッドホンしか残っていないということは
きっと色々事情があったのだとは思いますが…。

BOSEのすごいところは、本体サイズからは想像できない
豊かでマッチョな音質を再生できるところです。
ただ、ヘッドホンにするとどうもずんぐりむっくりな音になりがちなので
やはりノウハウは違うところにあるんでしょうね…。

ただ、BOSEはオーディオに詳しくない人にも知られた著名なメーカーなので
ブランドとしてもヘッドホンやイヤホンに力を注げば
かなり強いメーカーになりうるはずです(いい音が出せるようになれば…)
ぜひ健闘してもらいたいところですね。
【2009/06/28 16:06】
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2016/11/25 - あっという間に時が流れ、このblogも開設から10年目。2016年はその締めくくりをしたく思っています。2000年代後半にハイエンドの虜になった、一人のマニアの軌跡です。

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